海上の花園 〜佐渡の海岸の植物〜  笹川 通博



 お花畑と言えば、高山のそれを思い出す人が多いでしょう。確かに、高山にはそこにしか生育できない貴重な植物がたくさんあります。しかし、海岸に生育する植物も、考えようによっては高山の植物と同じくらい貴重であることを、多くの人に分かってもらいたいと思います。海岸は高山よりも比較的容易に近づくことができ、それどころか多くの人が生活しているので、身近すぎてその価値に気づきにくいのでしょう。しかし、海岸は高山に負けず劣らず特殊な所です。まず、水不足。一見、海の水がたくさんありますが、ほとんどの陸上の植物は塩分濃度の高い海水を直接利用できません。それどころか、海水がかかると枯れてしまいます。雨や陸地からの淡水は、砂浜ではすぐに吸い込まれ、磯ではすぐに流れ去ります。次に、砂浜でも磯でも栄養豊かな土壌に乏しいこと。それから、強風、波、干満、砂や石が動くこと、そして、人の活動など、海岸の条件は植物にとって厳しいものです。海岸の植物は、このような厳しい条件に適応した特殊なものなのです。

 海岸の植物も季節になると高山に負けないお花畑を作り出します。佐渡の海岸では初夏になるとまさに海上の花園です。(写真1)砂浜は少なく、険しい崖や岩が続く荒磯で、岩石の色も淡い緑や赤、黒など、微妙に少しづつ違い、魅力的です。そこに、ハマハタザオの白い花から始まり、有名なトビシマカンゾウの橙、スカシユリの赤、アサツキの紫、ベンケイソウの黄、ハマボッスの白、マルバシャリンバイの白、ハマイブキボウフウの白、砂浜にはハマエンドウの紫、ハマナスの赤、ハマヒルガオの桃、スナビキソウの白などが百花繚乱です。ここでは、私がこの頃歩いている佐渡郡相川町七浦海岸で見られる植物をいくついか紹介します。


写真1 スカシユリとアサツキの群生
(June 9, '96 佐渡七浦海岸 No.1456)

1.ウミミドリ ーさくらそう科ー (写真2)

 新潟県では佐渡の海岸だけに分布する北方系の植物で、佐渡での分布は全国分布の南限です。高さ10cm程の小さな草で、初夏に桃色の星のような花が咲きます。私が歩いている七浦海岸では、6ケ所で群落を見つけました。磯の潮だまりの湿地にクッション状に群生し、これまた珍しいドロイ、エゾウキヤガラ、シオクグなどと一緒に生えています。6ケ所の群落は小さな入り江の奥にあり、うち3ケ所は陸地から水の流れがあります。ウミミドリが生育できる環境を考えてみますと、大変厳しいことが分かります。磯の湿地で、波が直接にはかからない所です。波が来なければ磯はすぐに乾燥するので、湿地という条件は案外難しいのではないでしょうか。また、小さくて目立たないので、人が知らないうちに群落を壊してしまうおそれもあります。佐渡の海岸の植物の中では、最も大切にしたいものです。

写真2 ウミミドリ
(June 2, '96 佐渡七浦海岸 No.1424)

2.エゾツルキンバイ ーばら科ー (写真3)

 北方の海岸に分布する草です。キジムシロの仲間ですが、茎がつるになるのが特徴です。大変珍しい植物で、本などにも佐渡七浦海岸のものの写真が載っていますので、是非見たいと思っていました。この前やっと3株を磯で見つけることができました。残念ながら花は見れませんでしたが、護岸工事などで消滅していなくてよかった、とほっと思いました。

写真3 エゾツルキンバイ
(July 27, '96 佐渡七浦海岸 No.1591)

3.エゾヒナノウスツボ ーごまのはぐさ科ー (写真4)

 県内では佐渡や粟島の海岸に分布し、越後での分布は極めて限られています。高さ1m程にもなる大きな草で、四角い茎にヒレのあるのが特徴です。初夏に濃い紫の小さな花が咲きますが、この形がおもしろく、ウスツボ(臼壷)なのです。ごまのはぐさ科は多用な種を含む大きな科です。どうして「ごまのはぐさ」なのか、この植物の葉をもんでみて分かりました。ごまの香りがするのです。ごまのはぐさ科の他の仲間ではしないようです。

写真4 エゾヒナノウスツボ
(May 19, '96 佐渡七浦海岸 No.1278)

4.ヒロハヘビノボラズ ーめぎ科ー (写真5)

 佐渡には至る所にある低木ですが、越後では分布が極めて限られています。枝に鋭いとげがたくさんあり、それこそ蛇も登れそうにありません。同じ仲間にコトリトマラズというのもあるそうです。初夏、崖の上で乳色がかった黄色の花が小さな玉のようになって豊かに咲く様子は、大変美しく魅力的です。秋の赤い実もおもしろいものです。

写真5 ヒロハヘビノボラズ
(May 12, '96 佐渡七浦海岸 No.1237)

5.エゾオオバコ ーおおばこ科ー (写真6)

 オオバコといえば雑草の代表のようですが、エゾオオバコの越後での分布は限られています。佐渡には海岸の岩場だけではなく、街の中でも見られます。普通のオオバコに比べて小さく、毛がたくさん生えているところが違います。よく見るとなかなかかわいいものです。他にも、トウオオバコという高さが50cmにもなる巨大なものも海岸に群生します。

写真6 エゾオオバコ
(May 12, '96 佐渡七浦海岸 No.1202)

6.ハチジョウナ ーきく科ー (写真7)

 高さ1m程になり、夏から秋にタンポポに似た花が咲きます。私が歩いている所には比較的多く見られますが、越後では見たことがありません。北方の海岸に多く、元は帰化植物(外国から来たもの)だそうです。

写真7 ハチジョウナ
(July 21, '96 佐渡七浦海岸 No.1571)

今回はこの6つを紹介しただけですが、当然、もっと多くの植物があり、それぞれおもしろい特徴や生活を持っています。これから秋に近づくにつれ、紫色のハマゴウやエチゴトラノオ、ツリガネニンジン、桃色のカワラナデシコなどの花が咲き、また、多くの美しい実がなるのかと思うと楽しみです。しかし、残念でならないこともあります。1つは、海岸のゴミです。場所によってはゴミ捨て場のようになっています。(写真8)飲み物や洗剤などの容器が多いのですが、大きな陶器や機械なども落ちています。見ると日本語だけでなくハングル文字の物もあるので、これはおそらく海にあったものが、佐渡の海岸まで流れついたのでしょう。何気なく海に投げ捨てたものが、こうして海岸に戻って来るのです。世界の海がいかに汚れているかということがよく分かります。きれいな海を売り物にしている佐渡としては、残念なことです。もう1つは、マツクイムシです。古い立派な松が無残にも茶色に枯れはて、次々と切り倒されて行きます。佐渡の歴史ある景色も、ほんの数年のうちに松がどんどんなくなったため、すっかり寂しくなりました。


写真8 ゴミに埋まるエゾヒナノウスツボ
(May 25, '96 佐渡七浦海岸 No.1333)



本の紹介

 佐渡の植物について興味を持たれた方は、次の本を推薦します。写真が大きくて美しく、解説もおもしろくて分かりやすく書かれています。

 「佐渡の花 春・夏・秋(全3巻)」 (1995)
    伊藤邦男(解説)・村上博實(写真)
    佐渡の植物刊行会・ドンデンの自然を考える会 7,800円

  問い合わせ先:952-12 新潟県佐渡郡金井町千種106−3
         佐渡の植物刊行会 代表 伊藤邦男
         TEL 0259−63−2709

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